ルビー・スキンの一族 その1

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 合わない靴でも履いたように、種族変身した後の身長差にはいつも戸惑う。アコは神父の面前でふらつき、失礼かもしれないとは思ったものの、生まれなおしや生きなおし、生き返しといった言葉に表されるものの副作用ならば、不調も仕方がないと理解するのだった。
 オーガの肌は赤く、アストルティアにおける主要五種族のうちで最もがっしりとした体躯だった。男性ならば筋肉質であり、直立した小動物のような容姿を持つプクリポの家では常にお辞儀をするしかないような身長を有する。女性も、オーガ男性に比べて小柄でこそあるものの、他種族とは比較にならない体つきを持つのだった。また、男女ともに額には二本の突起があり、両の肩部には槍の穂先のごとき角を持っている。
 久しぶりに人間からオーガになったが、違和感を禁じ得なかった。アコは体を慣らそうとして一、二歩と歩み、新品の衣服がしっくりくるように、同じ名前を持っていたオーガのアコの体に慣れてから、神父に礼を言い教会を出た。
 建物から出るということ。外への遷移。新たな地平。まぶしい。まぶし過ぎる。今は許して欲しい、と心がきりきりした悲鳴をあげた。
 アコは、自分がまだ人間だった頃を思い返しはじめた。
 いいや。
 自分がまだ、人間という種族しか知らなかった頃だ。

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